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PART1 「私の腰痛、もしかしてギックリ腰?」
PART2 「ギックリ腰の激痛、いったい腰で何が起きているの?」
PART3 「ギックリ腰には原因によっていろいろ、私はどのタイプ?」
PART4 「ギックリ腰になったときの対処法は?」
PART5 「鍼灸治療はギックリ腰にどんな治療を?」
PART6 「ギックリ腰に予防法はある?」
PART7 「要注意!内臓からくる急性腰痛の見分け方」
PART1「私の腰痛、もしかしてギックリ腰?」
ギックリ腰の場合、通常の腰痛とは対処法も治療法も大きく異なり、患部を揉んだり温めたり深い鍼をすると逆に症状が悪化してしまうため、判別は大変重要です。
ではどうやって見分けるのか。下記条件に一つでも当てはまればギックリの可能性があり、注意が必要です。
- 1.いつから痛みが始まったかハッキリ覚えている。また傷めたきっかけが思い当たる。
- 2.それは1~2週間以内の話である。
- 3.椅子から立ち上がるときにピキッと痛む。
- 4.歩行時に痛む。
- 5.寝返り時に痛む。
- 6.いつもの重ダルい腰痛と違い、鋭い痛みが走る
PART2「ギックリ腰の激痛、いったい腰で何が起きているの?」
A.筋肉(筋膜)の炎症が原因のギックリ腰
筋肉を包む筋膜に顕微鏡レベルの小さな傷が炎症を起こし、ギックリ腰が生じます。ギックリ腰のなかでもっとも多く、比較的治りやすいタイプです。
B.靭帯の炎症が原因のギックリ腰
関節を構成する(骨と骨をつなぐ)靭帯の捻挫で炎症が起き、ギックリ腰が生じます。Aの次に多いタイプのギックリ腰です。Aよりはやや時間を要する場合が多いですが、きれいに治ります。
C.神経への圧迫が原因のギックリ腰
軟骨(椎間板)や骨(骨棘など)が神経を圧迫してギックリ腰が生じます。上記ABに比べ治療には時間を要することが多くてごわいタイプのギックリ腰です。再発の可能性も高く、継続したケアが大切となります。
PART3「ギックリ腰には原因によっていろいろ、私はどのタイプ?」
A.筋肉に原因のあるギックリ腰
①筋・筋膜性ギックリ腰
最もメジャーなタイプです。直立姿勢を保つ脊柱起立筋などを
包む筋膜に、度重なる疲労の蓄積により小さなキズがついたり、膜が破れたりしてギックリ腰が生じます。
見分け方
腰を前屈(お辞儀)をすると痛みが出ることが多いです。また患部が浅いため、指で上からギュッと押すと痛みを感じます。痛みのエリアはベルトラインより上に分布する傾向です。
B.靭帯に原因のあるギックリ腰
②椎間関節性ギックリ腰
上記①の次にメジャーなタイプです。背骨と背骨が接する関節の靭帯や関節包が度重なる負荷の蓄積で捻挫してギックリ腰が生じます。
見分け方
腰の後屈(反らす動作)で痛みが出る傾向です。患部は深いため、指で押しても痛みが出ないことが多いです。痛みのエリアはベルトライン以下の傾向です。
③仙腸関節性ギックリ腰
骨盤を構成する仙骨と腸骨が接している仙腸関節の捻挫により炎症が起き、ギックリ腰を引き起こします。
これは近年おおいに注目されるようになった病態で、「全ての腰痛は仙腸関節の異状に原因がある」とする向きもありますが、これはやや極論といえます。
見分け方
腰の後屈(反らす動作)で痛みが出る事が多く、また痛みのエリアがベルトラインよりも下であるのが特徴です。
④スプラングバック
スキーで転倒したり、交通事故などの強い外力により、背骨の角(つの=棘突起)と角を結ぶ靭帯が捻挫を起こし、ギックリ腰を生じた状態です。
見分け方
ベルトライン以下の高さの背骨上(正中)に痛みが出ることが多く、指で押すと強く痛みます。
C.神経に原因のあるギックリ腰
⑤腰椎椎間板ヘルニアをベースとするギックリ腰
前屈動作による腰への負担の蓄積により、背骨と背骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板(軟骨)が後外方にはみ出します。
それが腰の神経を圧迫して腰から臀部、とりわけ下肢にかけて神経の走行の延長上に激しい痛みやシビレが生じるタイプのギックリ腰です。
見分け方
若い人に多く、20歳代35%、30歳代30%、40歳代20%という報告があり、おおむね50歳くらいまでの方に起こりやすいケースと言え、高齢者にはまれです。それは年齢と共に椎間板の水分が失われ、萎縮して行くためです。
症状が腰だけでなく、むしろ臀部や大腿、ふくらはぎに痛みやシビレ(いわゆる坐骨神経痛)が強く出る事が多いです。また、前屈位(お辞儀動作)でその症状が増強する事も特徴です。
さらに、かかと歩きや爪先立ちが出来なくなったり、左右どちらかの足先の感覚が布の上から触れられたように鈍くなったりします。
⑥腰部脊柱管狭窄症をベースとするギックリ腰
背骨は真ん中に穴(脊柱管)が開いていて、縦に脊髄という神経の束を通しています。
50歳を過ぎる頃からこの穴の経は徐々に小さくなって行く傾向があり、それが脊髄から出る腰の神経を圧迫するようになると、腰から下肢にかけて強い痛みやシビレが生じ、しばしばギックリ腰として激しい痛みを生じます。
見分け方
50歳を過ぎた中高年以上の方に起きやすく、通常若年層には発症しません。また腰よりもむしろ臀部から大腿、ふくらはぎにかけて強く痛みやシビレ(いわゆる坐骨神経痛)を訴える事が多いです。更に、後屈位(腰を反らす動作)でその症状が増強するのが特徴です。
また、数10m~数100m歩くと片脚(または両脚)に強い痛みやシビレ、脱力感が生じて歩けなくなり、数分のあいだ前屈位で座って休むとまた歩けるようになります(間歇性跛行)。さらに前屈位が楽な為、自転車はスイスイ長時間こげることも特徴です。
なお、整形外科のでレントゲン所見で「背骨と背骨の間が詰まって(狭窄して)いますね。」と言われて「病院で狭窄症と言われました」とする患者さんに良くお会いしますが、これは変形性脊椎症と呼ばれている病気で脊柱管狭窄症とは異なります。
⑦腰椎圧迫骨折をベースとるすギックリ腰
骨粗しょう症などで骨が弱くなったお年寄りが尻もちをついたり、クシャミをしたり、爪をきろうとして前屈したり、靴下を履く動作などの何気ない日常動作で起こるため、骨折に気づかず「いつのまにか骨折」などといわれることもあります。
背骨の一つが上下から押しつぶされたように骨折し、腰の神経を圧迫して時にギックリ腰と同様の激痛が出て布団から自力で起き上がれないこともあります。
見分け方
骨粗しょう症などで骨が弱くなったお年寄りによくみられるケースで、ウェストラインかそれよりもやや上の背骨を骨折しやすく、椅子に座らせて同部をこぶしで軽く叩くと痛みがでるのが特徴です。
また、骨折部はウェストライン以上が多い一方で、痛みの自覚は同部よりも下のベルトラインあたりに感じることが多いです。
PART4「ギックリ腰になったときの対処法は?」
1)ギックリ腰の正しい対処法
①冷湿布で冷やす
ギックリ腰はすぐに患部を冷やすのが基本です。炎症が起きて血管が拡張し、熱を帯びている状態なので、血管を収縮させて熱を取り、炎症を軽くする必要があるからです。特に最近の湿布は進歩が著しく、消炎成分が多く含まれていて有効です。
但し、冷やすといって冷湿布のそれは「炎症をとる」意味合いであり、氷や保冷剤で冷やす必要はありません。そうした冷やし方は長時間おこなうと「ギックリ腰を治そうとする力」をも鈍らせてしまうからです。
②骨盤ベルトを着用する
ベルトで腰を支えることで、傷めている筋肉や靭帯の負担を減らし、動作時の痛みを軽減できます。絶対安静ではなく、「動きながら治す」ことが回復を早めるという近年のギックリ腰への理想の対処法にも適っています。
但し、食後しばらくは消化不良を起こしやすいのではずすこと、寝るときも血行不良をおこすのではずすこと、腰の筋肉が怠けすぎないよう動かないときはなるべくはずすこと、以上3点の注意が必要です。
③消炎鎮痛剤の服用
痛み止めは「ただ痛みを抑えるだけで薬が切れればまた同じ」と考える向きもありますが、そうではありません。鎮痛に加え消炎作用があり、ギックリ腰の治癒を早める効果があります。
ただ治療の上でギックリ腰の痛みの変化を感じ取ることが大切なので、我慢できないレベルの痛みが去ったら薬からはなるべく離れ、状態の変化を正確に体感して頂く事をお勧めしています。また、胃を荒らす薬も多く、長期の服用はお勧めできません。
④寝るときは横向きで
ギックリ腰を起こした腰に負担をかける姿勢を悪い順に挙げると
うつ伏せ→仰向け→横向き、です。横向きが最も腰への負担が軽いのです。
どうしても仰向けでないと眠れないという方には膝の下に布団を丸めて入れて膝を立てる姿勢で寝てもらいます。膝を立てることで腰の筋肉が緩み、負担が軽くなるのです。
2)ギックリ腰の間違った対処法
①患部を温めてしまう
ギックリ腰の患部をカイロなどで温めてしまう方がいますが、これは熱を帯びた患部の炎症を更に悪化させ、痛みを増強させてしまう恐れがあり、間違った対処法です。
②入浴してしまう
やはりギックリ腰の患部を温めてしまうというところで、誤った対処法です。身体を洗いたいときは短時間のシャワーで済ませて、すぐに布団に入るくらいであれば問題ありません。
③お酒をのんでしまう
飲酒も血管を拡張し、ギックリ腰の患部の炎症を悪化させてしまう点で避けたいところです。治癒を遅らせることになります。
④ストレッチをしてしまう
強い痛みが出ているうちは行動は日常生活動作程度にとどめ、ストレッチやウォーキングなどの腰にやや強い負担をかける動作は炎症を悪化させるので避けたほうが無難です。
⑤絶対安静にして動かない
「ギックリ腰で救急車を呼び入院した」という、笑うに笑えないお話を聞いたことがありますが、入院して痛み止めと湿布で絶対安静にしていれば治りが早いかというと、決してそうではありません。
「絶対安静はかえって回復を遅くする」ということがここ数年ようやく言われだしました。ギックリ腰を起こしてもベッドに横になってばかりいるのではなく、日常生活動作レベルの動きは(痛みを感じながらも)したほうがより早く回復する、というのが事実です。
それはこんな理由からです。ギックリ腰の激しい痛みが起きると、脳は腰の筋肉に「痛いから動かすな!!」といわば『非常事態宣言』を出します。
そして実際に炎症が治まり、痛みが和らぎ始めてもその、激痛の記憶があまりに強烈なため、『非常事態宣言』は解かれることはなく、脳から発せられ続けます。
すると何が起こるか・・・ギックリ腰による炎症はすでに治っているのに脳に刻み込まれた激痛の記憶により筋肉か硬直し、また心理的にも痛みに対する恐怖により、動かすことが出来ない。つまり「治っているのに怖くて動かせない」といういわば仮性ギックリ腰の状態が長く続きます。
「動かしながら治す」という意味合いは何か。それは激痛と恐怖の記憶が深く刻み込まれた脳に対して「どう?昨日よりマシだよね。ほら立ち上がるときの痛みが半分くらいになっているよ。昨日まで曲がっていた腰が今日は少し伸びてるよ」と知らせ、『非常事態宣言』の解除を促し、治癒をいたずらに遅らせないといった大切な意味合いがあるのです。
PART5「鍼灸治療はギックリ腰にどんな治療を?」
掟その1:うつ伏せにしない
→腰に最も負担をかける姿勢であり痛みは悪化します
掟その2:腰に深い鍼は刺さない
→炎症部の痛みを誘発し、悪化します
掟その3:腰を揉まない
→腰を動かすのと同じ、痛みは悪化します
ということです。これらの掟のいずれか一つでも破ってしまうと、ほぼ確実に痛みは悪化します。よく、ギックリ腰に「マッサージ・整体をしたら痛みが悪化した」とか「鍼をしたら逆に悪くなった」というお話を耳にしますが、上の掟のどれかを破っている可能性が高いと言えます。
さて、今度は本題のギックリ腰に対して「どんな治療をするか」について解説をつけてお話します。
ギックリ腰の場合は治療はまず『痛みを抑え、炎症を消し去り、自然治癒力を引き出す』という部分が最優先となるため、「当院の治療法」にあるスタンダードな内容とは異なり、特殊な治療法をとることとなります。
具体的治療法は下記①~⑤にわたります。
治療①
痛い方の腰を上にして横向きで、まず足のツボ2つに鍼をします
治療②
次にお尻のツボ2つに鍼をします
以上①②はギックリ腰により炎症を起こしている患部から出ている神経の延長上にあたり、このツボに鍼をすることで、遠隔部から患部の痛みや炎症を抑えることが可能です。
治療③
腰部の痛みが出ている複数のポイントに2ミリ程度の浅い鍼をします
さて、この③の大切なポイントはあくまで浅い鍼という点です。浅い鍼には抜群の鎮痛効果があります(逆に深い鍼は痛みを誘発し、悪化させることは上記掟その2で述べたとおりです。)
その理由はこうです。人体は皮膚に近ければ近いほど(浅ければ浅いほど)その感覚は優先的に脳に伝わるように出来ています。
例えば耳にハエがとまったとしましょう。瞬時にその感覚は脳に伝わり、「左の耳たぶにハエがとまった!」と正確な場所をも感知し、払いのけることができます。
一方で、腰痛の場所に関し患者さんに問うと「先生この辺が痛いんです」と右腰全体の広範囲を手のひらで指し示したりします。痛みの場所がハッキリ感知できないのです。
鍼は上記の身体の仕組みを利用します。僅か1~2ミリ浅い鍼のかすかなチクッとした刺激の信号は最優先で脳に到達し、深いところで疼いているギックリ腰の痛みの刺激の信号より優先され、これを遮断してくれます。これによりギックリ腰の痛みは脳に感じられなくなるのです。
実はこれが鍼の鎮痛作用の本質の部分です。つまり脳を錯覚させて痛みを感じなくしているのです。すると脳が痛みのストレスから解放されることで、『非常事態宣言』(PART4⑤参照)が解除され、筋肉の緊張が緩み、自然治癒力が引き出され、傷のついた筋膜や捻挫した靭帯の修復が促進されるのです。
では患部に鍼を深く刺すとどうなるか。炎症部位を直接刺激することになり、当然ながら痛みを誘発悪化させることになるのです。
治療④
左右横向きでお尻と腿の内側をやや強く、念入りにマッサージ・整体をします
これは治療②のいわばマッサージ・整体版です。お尻と腿の内側はいわゆる坐骨神経の起点とその延長上にあたり、これをマッサージ・整体することで患部の痛みや炎症を抑えることが出来ます。
治療⑤
最後に痛みの残っている複数のポイントに置き鍼をして仕上げます
さて「置き鍼」とは何か。これは2ミリ程度の小さな鍼で、これをギックリ腰の患部に皮膚に平行に、先端0.1ミリくらいチョコンと当てて上から特殊な紙テープで貼り付ける処置です。
皮膚に近い浅い刺激を継続して脳に送ることで、鎮痛効果を持続させるのが目的です。痛みを抑えることで「自然治癒力」が引き出され、患部を治そうとする環境を維持します。
一方で日常生活動作等の刺激で「患部の炎症」は拡大しようとしますので、初めはこの「炎症」と「治癒力」両者のせめぎ合いが続きます。
この「自然治癒力」がせめぎ合いに負けないように応援するのが置き鍼の働きです。この応援があるとないとでは治るスピードが大違い!です。
初めて置き鍼を経験される方に「先生、あの貼り付ける鍼がよく効きましたよ!」とよく感心されます。
PART6「ギックリ腰に予防法はある?」
ギックリ腰の強い痛みが出ている急性期や、腰をそることで下肢に神経痛が出る場合などには体操は適しませんが、それ以外の場合腰痛全般の予防と改善に効果を発揮します。
1960年代にロビン・マッケンジーというニュージーランド生まれの理学療法士が提唱した体操法を応用した、シンプルで短時間ながら確実な効果をだせる優れた体操法です。
当時は彼が医師ではないことからか、あまり高い評価を受けたなったようですが、近年になりその確かな効果が見直され広く支持されつつある理論に基づく体操です。
PART7「要注意!内臓からくる急性腰痛の見分け方」
~ギックリ腰と間違えない為に~
- 楽になる姿勢がない(横になっても痛む)
- 夜間に痛みで目が覚める
- 痛み止めが効かない
- 発熱、腹痛を伴う
- 食事もとれないほどである
- 冷や汗が出る
上記の症状を伴う腰痛はギックリ腰によるものではなく、内臓の異状が原因の場合が考えられ、精密検査が必要です。
考えられる病気としては下記の通りです。
胃・十二指腸潰瘍穿孔
急性膵炎
解離性大動脈瘤
尿路結石
腎盂腎炎
子宮外妊娠
ギックリ腰(急性腰痛) 自律神経失調症 慢性腰痛 坐骨神経痛 寝違い 慢性肩こり 頚椎症 五十肩 膝関節痛 慢性頭痛 不眠症 月経困難 便秘症 パニック障害 更年期障害